「あなたは・・・」

そこにいたのは、高そうなスーツを着てサラダを持つ男性。
萌夏はこの人物を知っている。
知っているといっても今日の昼間に初めて会ったばかりだから、初対面ではないという程度だけれど。

「昼間はどうも」
男性も萌夏のことは覚えていたらしい。

今日の昼間、例のストーカー男ともめそうになった時に助け舟を出してくれた男性。
本当ならお礼の一言でも言うべきだけれど、萌夏はそんな気になれない。
だって、

「最後の一つだったみたいだけど?」
欲しいのかって顔で萌夏を見る男性。

「あなたが先に取ったんですから、どうぞ。私はそんなに食べたかったわけではありませんし」

本当は食べたいけれど、この人に譲られるのは嫌な気がする。
昼間だって随分嫌味なことも言われたし、正直いい印象はない。
ここで譲ってもらえば負けた気になってしまう。

「かわいくないなあ。素直に食べたいって言えばいいのに」

フン。
あなたにかわいいと評価してもらう必要はありません。
萌夏は返事もせずにレジに向かった。

カゴの中身はシーフードドリアのみ。
一緒に買うはずだったチューハイを手にすることもなく、ただこの場から逃げ出したいだけの思いで店を出た。