「そうかな。最近の九条さん、何処か楽しそうだよ」
「……え」


 パッと顔を上げると、優希くんは微笑んでいた。
 切な気に見えなくもない微笑みを前に、言葉が出てこなくなる。

 楽しそう……私が?
 関係性は前より良くなっているとは思うけれど、本物の夫婦とは程遠い関係だというのに。


「もしかして、自覚ない?」
「すみません、心当たりがなくて……」

 楽しそうにしている自覚はないし、むしろ私は我慢しているのだ。

 我慢していて、早くこの関係が終わればいいのにと思っている。


 早く3年後になって、郁也さんと離婚をする──私だけではなく、きっと郁也さんもそれを望んでいるのだ。


「九条さん?」
「あっ、いや……何でもないです」


 郁也さんとの関係は期間限定。
 その事実が頭から離れていたことは、自分の胸中に留めておく。


 互いが家にいる時はリビングで過ごし、同じ時間にご飯を食べれる時は一緒に食べるのがここ数日間で当たり前になっていた。

 これだとまるで、本当の夫婦のようではないか。


「複雑だなぁ……」
「複雑、ですか?」

 優希くんが独り言のように呟いていたけれど、言葉を拾ってしまい、つい聞き返してしまう。


「ううん、こっちの話だよ」


 優希くんはそう答えてお酒を飲んでいた。

 私も同じようにお酒を飲むけれど、あまり飲み慣れていないため、今飲んでいる2杯目で終わろうと思った。