過去に付き合った相手は高校時代に一人だけ。

 気が強そうな見た目をしているためか、第一印象ではいつも彼氏がいそうだとか、男と遊んでいそうと言われるけれど、実際は優希くんと手を繋いだだけで、とても緊張するような人間である。


 郁也さんは私の顔を覗き込もうとしたタイミングで腕の力を緩めてきたため、すぐに体を半回転させ、彼に背中を向けた。


「あ、逃げた」
「逃げてません。反対側を向いただけです」


 珍しく機嫌が良いのか、私を見て楽しそうに笑っている郁也さんは「そうか」と言い、少し距離が空いた状態から再び私を抱き寄せてきた。

 もしかして抱き枕がないと寝れない人間なのだろうか。そう思っておこう。


「なあ」
「……何ですか」

「まだ眠たくないだろ」
「まあ、はい」

「だったら少し話すか」
「えっ、何を話すんですか」

「俺の親が言ってただろ。俺にも家事をやらせろって」


 そうして始まった郁也さんとの会話。
 いつもは長くても数分で終わるけれど、今日は長く続いた。

 いつもは広いベッドで一人で寝ているけれど、嫌いな相手でも誰かといる方が心細くないと思う自分がいた。