「すみません、華さんたちに気を遣わせてしまって」
「いいのいいの!気にしないで」

「ではお言葉に甘えて。朱莉にも伝えておきます」
「よろしくね。じゃあおやすみなさい、また明日」

「はい、おやすみなさい」


 ようやく二人の会話が終了し、ドアが閉められたのを確認して起き上がろうとしたけれど、私の腰にまわされている郁也さんの左手が力強くて離れることすらできなかった。


「あの、郁也さん。手、離してください」
「また来るかもしれないだろう」

「もう大丈夫で……」


 そこまで用心する必要はないと思ったけれど、何故か郁也さんはさらに左腕に力を込め、私を抱きしめてくる。

 先程は寝室のドア付近に立つお母さんに意識が向いていたけれど、今はこの状況の他に意識が逸れるようなものなどない。


 郁也さんのゴツゴツした男らしさの感じる大きな手、逞しい腕に厚い胸板。

 普段は憎たらしいと思う相手でも、男として意識せざるを得ないこの状況。

 鼓動が速まるのが自分でもわかる。
 

 どうして、こんな相手に感情を乱されないといけないのだ。


「何、もしかして意識してんの?」


 急に大人しくなった私を見て、郁也さんは鼻で笑ってきた。

 ムカつく、ムカつくけれど。
 苛立ち以上に胸の高鳴りが勝ってしまう。

 どうやら私は、相当男性に対して免疫がなかったようだ。