「朱莉、もう寝たのね」

「はい。今日も朝早く起きていたので、疲れているんだと思います」

「昨日、突然家に行くって連絡してしまったからね。次からは前もって伝えるようにするわね」


 また来るつもりなのか……正直、私が実家に顔を出したいものだ。


「それにしても二人とも、想像以上に距離が近いのね」

 密着状態の私たちを見て勘違いしたのだろう、お母さんが嬉しそうな声をあげていた。

 郁也さんの咄嗟の行動が吉と出たようで、境界線を越えてきたことは許してあげようと思ったり。


「もちろん夫婦なので」
「ふふっ、朱莉も素敵な旦那さんに出会えて幸せ者ね」


 私のお母さんは、本気で彼を素敵な旦那だと思っているのだろうか。

 京子さんも彼が家事をやらないと聞いて怒っていたというのに。


「俺なんてまだまだです」
「謙遜しなくていいのよ」

「いえ、本当に朱莉には助けられてばかりで……そういえば、朱莉に何か用があったんですか?」


 これ以上、嘘を吐くのは苦しくなってきたのか、自然な流れにも思える形での郁也さんは話を変えていた。 


「あ、そうそう。朱莉、今日は私たちに気を遣いすぎて疲れていたみたいだから、明日の朝ご飯は私と京子さんが作ろうってなったの。だから朱莉も郁也さんも、遅くまで寝ていていいからね」


 気を遣っていたこと、気づいていたのか。
 さすがはお母さんである。朝も早く起きて色々と準備をしようと思っていたため、ありがたい。

 ここはお母さんに素直に甘えよう。