それでもいいと割り切って、舌でも出してやろうかと思っていた時だった。
「朱莉、まだ起きてるかしら?」
寝室のドアのノック音がした後、ドアの向こうからお母さんの声が聞こえてきた。
起きていると言おうとしたけれど、今のこの状況を見てハッとする。
私は上体を起こしている上に、郁也さんと微妙に距離が空いているのだ。
その様子を見てお母さんに怪しまれたらと思うと、返事ができない。
「朱莉?開けるよ?」
いや、そこは戻るべきだろう。
私も郁也さんも寝ていた場合、睡眠の邪魔をしてしまうと思わないのか。
とりあえず、私が設定した境界線ギリギリまで郁也さんに近づこうと思ったけれど、その前に彼が私の腕を掴み、そのまま自分の元へと引っ張ってきた。
体のバランスが崩れ、郁也さんの胸元へと倒れ込み、あっという間に密着状態になってしまう。
「ちょ、郁也さ……」
「寝たフリしてろ」
慌てて離れようとしたけれど、その前にドアが開けられ、私は咄嗟に目を閉じる。
「華さん、どうしましたか?」
私に向けての声は冷たいくせに、お母さんの名前を呼ぶ郁也さんの声は優しかった。
態度の違いにイラッとしたけれど、寝たフリに徹する。



