「私って……」
本当に郁也さんのことを何も知らないようだ。
それでも、郁也さんのことを知ろうとは思わないけれど。
準備を終え、リビングのソファに座って郁也さんの連絡を待つ。
この時、連絡が来ると思っていたこと自体が間違いだった。
時計の短針が19時を指そうとしたタイミングで、何の前触れもなく、玄関先のドアの鍵が開く音がしたのだ。
慌てて立ち上がり、リビングの扉を開ける。
「朱莉、ただいま」
真っ先に視界に映ったのは、スーツ姿で偽りの笑みを浮かべる郁也さんの姿。
親の前では『朱莉さん』と呼んでいた彼が、当たり前のように私の名前を呼び捨てにしていた。
「えっ、この人が奥さん……!?すごい綺麗な人だなぁ」
「この人が20歳の奥さんとか嘘だろ……?」
「おい、それより他に言うことがあるだろ!……すみません、突然お邪魔させてもらって」
郁也さんの後に続いて家に入ってきたスーツ姿の男性3人を見て、ようやく我に返る。
「こんばんは。みなさん、お仕事お疲れ様です。いつも夫がお世話になっております。妻の漣朱莉です」
郁也さんと同じように笑みを浮かべて挨拶をする。
正直、夫という言葉を平然と口にできた自分に驚いたけれど。



