「えっと……まだ全然慣れそうにないです」


 慎重に言葉を選ばなければ、愚痴ばかり言う女だと思われたくない。

 相手は最低最悪だと言いそうになるのを耐える。


「そっか。今の生活は始まったばかりだろうし、まだ慣れなくて当然だよ」


 励ましてくれているのだろうか。
 けれど、優希くんに励まされると悲しくなってくる。

 まるで今の結婚生活を応援されているように思えたからだ。


「そう、ですよね……早く慣れるように頑張ります」

 優希くんは今、私を見てどのようなことを考えているのだろう。

 穏やかな表情からは真の感情など読み取れず、無難な返しをするのに精一杯だった。


「もし辛くなったら、いつでも相談してくれていいからね。俺が悩みを解決することはできないけど、話を聞いて一緒に解決に向けて考えることはできるから」


 その優しさが私の胸を締め付ける。
 本当は今すぐ手を伸ばして、優希くんに頼りたいけれど、その勇気はでない。


 だって私はもう独り身じゃない。

 いくら政略結婚であろうと相手はいるのだ。それなのに、結婚相手以外の男性に縋ろうなど、結婚している身としてダメな気がした。


 私は郁也さんの浮気を遠回しに認めているけれど、私は彼と同じことは絶対にしたくない。