先付の胡麻豆腐に箸を伸ばしたお兄が冗談めかす。

「あずが気に入ったのを店ごと買い取ってもいい、遠慮するな」

「余計に迷っちゃうってば!」

毎年の十分すぎる甘やかしに笑みが崩れるあたし。

ひと月後の7月11日で24歳。子供でもないけど大人になりきれてない自覚もある。分岐点みたいな気がしてるの、一皮剥けるか剥けないままかの。

馴染みのどこかで食事会をセッティングして、家族が祝ってくれるのが恒例で。お兄は前もって妹がリクエストしたプレゼントの他にも、花だったり流行(はやり)スィーツだったりを欠かさない。普通の家は、親からの誕生祝いが祝儀袋入りの現金じゃないって知ったのも、そんなに昔じゃなかったわよねぇ・・・。

いつもお兄は真っ先に欲しいものを訊いてくれた。叶えてくれた。

もしも。どんな願い事でも一つだけ聞いて。そう言ったら。

「よく考えて決めるね」

「ああ」

思ったことにフタをして、明るく答えたあたしに満足げな頷きが返った。

湯葉巻きやゼリー寄せ、鰻尽くしで運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら、よもやま話に花を咲かせた。実家に新築中の離れが完成間近らしい。子供が遊べるように庭も改造中なんだとか。

久しぶりの兄妹水入らず。お兄は穏やかに笑ってた。幸せそうなのが伝染して、あたしの気持ちも綻びっぱなしだった。