「可愛い妹の顔をしばらく見ないと落ち着かなくてな。俺が寂しくなるから、もっと実家(うち)に帰ってこいよ」

上着を取り、濃紺のシャツにサックスブルーのネクタイ、グレーのジレでリラックスしてるお兄が、向かいから淡く笑う。

「新婚さんに気を遣ってるの、これでも」

「要らん世話だぞ?」

ここ、うなぎ割烹の『倉科(くらしな)』には何度か。個室のお座敷からは雪見障子越しに、ほんのりライトアップされた庭園が臨め、風情も一緒に味わえる。

志田は、案内してくれた仲居さんが下がるのと一緒にいなくなった。運転中も受け答えは普通だったし、ぞんざいでもなかった。怒っても突き放されてもない。だけど。

ずっと背中を向けられたままの気がした。柳さんの“や”の字にも触れないで。

「来月は誕生日だろう、欲しいものは決まったか?」