志田が玄関から入ってくる寸前まで悩みに悩んだコーデは。襟元にビジューをあしらったティアードスリーブのサマーニットに、透け感のあるミディ丈の小花柄プリーツスカート。足許はセルリアンブルーのセパレートパンプス。

髪は下ろして緩く巻き、サイドは耳にかける。アクセントに紫陽花を象った可愛めのピアス。お気に入りの。

いつもだったら。しつこいくらい、似合うかどうか志田に念押しする。・・・今日は訊かなかった。なんとなく(こら)えた。いつまでも手を焼かせてちゃしょうがないわよね。志田の後をついて、黙って部屋を出た。




いつまでも。
同じようにはいられない。

志田のお嬢のままでも。
お兄の妹のままでも。

信号待ちから車がゆっくり滑り出した。無意識に吐息が洩れる。アタシハ、ナニニ、ナリタイノ・・・。呟きは声にならずに無くなった。闇に吸われたみたいに。