不快そうな、幽霊でも見たような眼差しがすっと逸れて。玄関先まで一緒についてきた志田は部屋には上がらず、黙って帰った。

見たままお兄に伝わるだろうから、即呼び出しも覚悟した。でも音沙汰無しで、もう一週間。脳内が花畑で聞く耳持たないって思われてる?たった三回会っただけでどうかしてる・・・って。

スーツジャケットの上から胸元の辺りをそっと探る。

ネックレスにぶら下がったサイズの合わない男物の指輪がブラウスの下に。肌身離さず大事に持ってればいつでも呼べる。そう言ったからあの(ひと)が。

洗いざらい打ち明けたら秋生ちゃんは。意味不明だけど『けっこう似た者同士』って冷やかしたあと、スマホ越しに力強く背中を押してくれた。

『陽人とあたしは、なにがあっても梓の味方!』

やっと空いた壁の穴を抜け出ても終わりじゃなかった。目の前には重厚な鉄の扉。番人はお兄。

通して欲しいの、できるならお兄の手でそれを押し開いて。あたしを行かせて欲しい。・・・優しく笑って。