本音を言えば、志田と顔を合わせるのは気が進まない。小さく吐息を逃す。あれ以来まともに話してないし、なにか言ってもこない。・・・もちろんお兄も。

あの夜。柳さんに送ってもらった夜。マンションに着くと路上に志田が一人で立ってた。GPSを辿ってあたしがgiraffeにいたのを承知してたとしても、秋生ちゃんと女子会だって言ってあったのに。

不意を突かれて動揺しまくったのはあたしだった。柳さんは、志田を見透かしたように薄く口角を上げ、まるで動じもしなかった。

『オレは遠慮も我慢もしないから、タツオのお嬢を平気で横取りするよ?』

笑みながら、左手の中指から抜き取った鈍色のリングをあたしの同じ指に嵌めると。願かけみたいな口付けをそこに落として艶めかしく囁いた。

『置いてく。オレの代わりに』

軽くクラクションを響かせ、どんどん遠ざかるテールランプを見届けてようやく、志田と目を合わせた。

『・・・惚れたんですか』

冷えた眸に問われた。

『柳はお嬢が思ってるような男じゃありませんよ』

あたしは答えた。

『志田が思ってるような(ひと)じゃないわよ、柳さんは』