「オレはね」

柳さんが続けた。艶めかしいでもない、切なげな淡い微笑みを浮かべて。

「梓ちゃんの拗ね顔も泣き顔もぜんぶ、オレだけの宝物になんないかなぁって思ってるだけ」

気が付いたら信号待ちでもない場所で車は停まってた。対向車のヘッドライトが差し込んでは消え。そのたびに柳さんの顔に影を落とす。

ハザードの規則正しい点滅音に、心臓の鼓動が重なって二重に聴こえてる。耳の奥で響く。息も忘れる。逸らしたいのに逸らせない。

「なってくれる?オレの宝物に。・・・一番大事にする」

そんなはずないと思うのに、初めてちゃんと目と目を合わせてる気がする。

柳さんてこういう顔だった?お兄より少し大人の男で。お兄より深い闇色の目をして。お兄よりくっきりした顔立ちで、お兄より甘く笑う。

答える前に捕まえられて口を塞がれた。気が遠くなりそうなくらい息も何もかも交ぜ合い。離れた隙に名前を呼ばれる。あずさ、って低く繰り返す。

その度に胸の真ん中が締め付けられた。戦慄いた。壊れそうだった。