スイレン ~水恋~

本気とも冗談ともつかずに。コケティッシュな横顔に吸い寄せられながら。

・・・初めて知った、志田と柳さんの生い立ち。二人の人生の振り分けた大人達の都合に自分が無関係じゃなかったことも。

お兄は経緯(いきさつ)を承知してるはず。でも極道者はだいたいがワケありで詮索しないのが暗黙のルールだ。話してくれることもなければ、まして本人に訊ねたりも。

もしも柳さんが千倉に選ばれてたら。あたしの世話係になってもやっぱり軽口で、底の見えない目で笑ってた?

もしも。志田が鷺沢に選ばれてたら、名前も覚えてない他人のままだった?

まるで想像できない。考えたとこでやり直しがきくものじゃない。ただ、あたしに言えるとすれば。

「どっちだったとしても違うほうが良かったとは思いません、きっと。・・・志田は志田だし、柳さんは柳さんだから」

「そっか」

ふっと笑み漏らすと、長い指を添えてロンググラスの中身を半分ほど煽った彼。

「昔は千倉の家にしょっちゅう連れてかれてねー。淳人がいないと寂しがって、タツオに引っついてる赤ずきんちゃんをよく見かけた。何だかちょっと羨ましかったっけ」