スイレン ~水恋~

こっちに横目を流す仕草もいちいち艶めかしい彼が、悪戯気味に口角を上げた。

「ガキの頃は置物かってくらい人間ヤメてたのに。大事なお嬢にヨルナサワルナって怖いんだよなぁ。梓ちゃんの世話係になって変わったよタツオは」

「志田のこと、いつから知ってるんですか」

ガキの頃って言葉に思わず目を見張り。志田はあたしが生まれる前に千倉(うち)に来たって聞いた。親も無くて施設から引き取ったって。・・・もしかして。

「同じ施設(とこ)にいたから幼馴染み。・・・って言うとヤな顔されるんだけどねー。歳も近かったからナニかっちゃ一緒くたにされて、タツオは千倉、オレは鷺沢に拾ってもらうことになりましたとさ」

歌うように柳さんは淡く笑う。

「でもオレは性に合ってたかなぁ、わりと好きにさせてもらったし。・・・もしオレとタツオが逆だったらって、ときどき思うんだけどねぇ。梓ちゃんはどっちが良かった?」