スイレン ~水恋~

「心配しなくても送るよ」

しっとりした声に、画面が真っ暗になったスマホから視線を上げる。二人だけになって少し、空気の甘さが違う。・・・気もする。

「女の子を一人で帰す趣味はなくてねぇ」

「志田を呼ぶので平気です。・・・柳さん飲んでるし」

「酔ってないから大丈夫」

匂いだけで顔色は全く。でもそういう問題じゃ。

「呼ばなくていいよ、タツオが来ると面倒臭い」

たつお?

「志田竜男(タツオ)、知らなかった?」

・・・そう言えば。遥か昔に下の名前を聞いた記憶があるような、ないような。