「あ、シアワセが逃げてった。勿体ないからオレがもらっとこうか?」

「・・・・・・・・・」

なんなの、この(ひと)。あたしが誰だか知ってるのよね?知ってて声かけてるのよね?胡散臭いって顔に大きく極太文字で書いて、冷めた視線を上向ける。

「なんかさ、ずっと寂しそうにしてたから慰めにきただけなんだよなぁ。そんな怖いカオしないでくれる?赤ずきんちゃん」

だーれが赤ずきんちゃん?!からかって遊んでるの・・・?!ふざけた男!お兄にチクってやるから!!

とは言え、招待客に横柄な態度はお兄の顔に泥を塗る。裾を気にしながら立ち上がり斜め上を一瞥。お兄に劣らない長身に、薄く口角を上げてみせた。

「ちょっと風に当たってただけですからお構いなく。柳さんでしたっけ、今日は兄の為にありがとうございます。ゆっくり楽しんでってくださいね」

我ながら完璧。くるりと背を向け、置き去りにしてスタスタ歩き出す。

「オレでよかったらいつでも慰めてあげるよー」

追いかけてきた声も見えない手で払いのけた。記憶から抹消しよう永久に。

せっかくの道草が台無しにされた気分で、お座敷に戻るまで溜息を()きまくったあたしだった。