スイレン ~水恋~

こういう時は透明人間扱いする。聞こえてても見えてない。

「いちおう忠告しとくけど、あたし達の連れってちょおっとフツウと違うから気を付けてね-」

「ヘェそうなの」

前を向いたまま口許だけで笑った秋生ちゃんの冗談に受け取ったのか、向こう側でニヤついて聞こえた。

「なんの仕事してんの?営業?こんな美人とだったらウチも取引したいよなぁ」

職場は制服じゃないから無難にリクルートスーツ着てるけど、仕事は電話応対に受付業務。お兄が志田に任せてる不動産関連会社でもよければ紹介するわよ。

「こーいう所に来たらさぁ、誰とでも楽しく飲むのがオトナなんだよなぁ。そういうのが分かんないなら来ちゃダメだよなぁ」

黙ってグラスを煽ったあたしに嫌みっぽく絡む眼鏡男。

なに?その、聞いたこともない頭の悪い理屈。千倉(うち)の店だったらとっくに叩き出して、ゴミ置き場に転がしてやるのに。