そのあとは。頼んでもないチーズの盛り合わせだのカットフルーツだのが勝手に出てきて、バーテン君の喋りが敬語雑じりに。秋生ちゃんは全く気にも留めないで遠慮なくお皿に手を伸ばしてる。

あたしが本気で毛嫌いしてる、それか毛ほども関心ないなら帰る選択肢があった。嫌がるのを無理強いなんてしない、彼女だって。自分でもなにを確かめたがって席を立たずにいるのか分かんない。・・・いっそ顔を拝めばその正体もはっきりするの?

胸の中で迷彩色の溜息を漏らして二杯目のジャック・ローズに口を付けた。少し酔いが回ってきてるかも。脳ミソがほんのり気怠い。

しばらくして入り口の扉が鈍い音を立てた。一斉に集中した三人の視線はすぐさま外れる。二人連れのオジサンから。

「お?珍しいねぇ、キレイなオネエサンが二人も」

「せっかくだから一緒にどう?」

テーブル席が空いてるのに寄ってくる冴えない中年サラリーマン。安っぽいスーツはシワだらけで。

「ごめんなさーい、連れを待ってるからー」

秋生ちゃんが軽くあしらう。

「じゃあ、それまでさぁ」

「そーそー奢っちゃうよ」

「おかまいなくー」

「冷たいなぁ」

「お客さん、しつこいオトコは嫌われちゃいますよ?」

(たしな)めるバーテン君にも耳を貸さず、片方が秋生ちゃんの隣りに、もう片方が後ろからあたしの隣りに回り込んできた。