梅雨入り前の少し湿った夜気が、露出した肌にまとわりつく中。抵抗も空しく電車を乗り継ぎ、とあるホームに降り立った。ロータリー沿いにはコンビニや不動産屋、チェーンのラーメン店が軒を連ね、もちろん初耳な駅名で。

スマホの地図アプリと睨めっこの秋生ちゃんと高架下のガードをくぐり、なんとなく見覚えのあるお店の並びをあたしは見渡す。

「ここかな」

そう。その路地を曲がったら。

「ビンゴ。さすが雪兄」

白色の看板灯に年季の入った欧風扉。そしてなんだか楽しそうな秋生ちゃん。

ここに立ってる自分にどっか現実味がない。もっと言えば会いたくない。どうせまた本気(ロク)でもないことばっかりに決まってるの。あの“約束”だって・・・口先だけよ。

「眉間にシワ寄ってる。そんなイヤそうな顔しなくてもー」

クスクス笑った彼女は、魔界の入り口に遠慮なく手を伸ばしたのだった。