「よし。二軒目(つぎ)行こっか梓」

「秋生ちゃんのオススメならどこでもいいけど?」

「じゃあキス泥棒の店で決まりねー」

「ちょ、ちょっと待って!!」

月に不定期で開催される夜の女子会。お見合い事件の報告ついでに、巣くったままのモヤモヤの素を引っ張り出してみた結果。海鮮居酒屋を出た途端、彼女にしたり顔で言い渡される。

なんでそーなるの秋生ちゃん!まさかの展開に狼狽え、あたしは懸命の説得を試みた。

「で、でも場所も覚えてないしっ、ほ、ほら、お兄にも釘刺されてるしっ、柳さんには近付くな、って?だからナイっていうか、ぜ、全然オススメしないっていうか?!」

「梓が世話になった礼を言いに行くだけ。任せなさいよー」

礼を言いにじゃなくてお礼参りみたいに聞こえたけどっ?

「高兄より雪兄に訊いたほうが早いか」

独りごちながら、歩道の脇に寄ってスマホを耳に当てる秋生ちゃん。止める隙もない。

「雪兄おつかれー、ごめんね仕事中。あのさぁgiraffeってバー知ってる?これから行、・・・ううん陽人じゃないよ」

何度か相槌打ったあとで、横顔に普段とは違う無邪気な笑みをほころばせる。

「場所、すぐ送ってくれるって」

片目を瞑り、こっちに向けた笑顔は妖しい悪魔に見えた。・・・気がしなくもなかった。