「ハジメマシテ・・・だったっけ?こんな美人さんをオレが見忘れるワケないしなぁ。でも自己紹介していい?」

言いながら上着の胸ポケットから箱形の煙草を取り出すと、流れる仕草で火を点け紫煙を逃す。吸い方がそこそこ様になってる男がやんわり笑った。

鷺沢(さぎさわ)一家の(やなぎ)・・・って憶えててくれる?」

鷺沢。聞き覚えがある・・・気がしなくもない。お父さんもお兄もあたしの前で組の話はしないから、なにかの拍子で聞きかじったのかも。

「柳、さん」

オウム返し。憶える意味なさそう。たぶん二度と会わないのに。

「うん。淳人とはまあまあ付き合い長いよ。オレは結婚に向いてなさそうだからしない主義だけどねぇ、アイツはそうも行かないかぁ」

千倉は世襲制だから跡継ぎのお兄も血を残さなくちゃいけない。杏花さんじゃなくても別の誰かといずれは結婚したのよね。

はぁ、と思いっきり溜息を吐いた。