路上に停めてあった車に戻り、電話をかけるタイミングをいつになく迷った自分。それでもウィンドウ越しに夜色が流れ始めれば、急き立てられるように指がスマホ画面を叩いた。

コール音が柔らかいバリトンボイスにすぐ切り替わる。デートの誘いは断ったと伝えたあたしに、お兄は優しく『気にするな』とだけ。おじさまもしばらくは懲りてくれるといいのに。

『・・・柳さんはいたのか』

少しトーンが下がって聴こえた。

giraffeに連れてきた理由を志田はなんて説明したんだか。外を見つめる素振りで軽く“YES”で流した。特別の関心もない風に。お兄も、耳をそばだててる筈の志田も、そう思い込んでくれればよかった。ナニモナカッタ・・・って。

最後は大袈裟に共犯のお父さんへのお仕置きを頼み、笑いで濁して通話を切った。

嘘で誤魔化してもないのに謝りたくなるような後味。今までだって全部を明け透けにしてきたわけじゃない、隠しごとの一つや二つ。でも違うの。ざらつく。ざわつく。

分かんないことだらけで重たい溜め息が洩れた。漏れついでに訊いた。

「・・・ねぇ志田」

「はい」

「なんでgiraffeだったの」