「まあいいや、淳人にヨロシク言っといて。ハイこれ」

ベストの胸ポケットから抜き取ったスマホを、柳さんがこっちに差し出した。

「今度もっとゆっくり話そっか」

ラフにスタイリングされた髪のせいか服装のせいか、披露宴の時より甘く香る男っぽい笑み。

「・・・ごちそうさまでした」

YESともNOとも答えずに受け取ると、スツールから降り立ち、少し素っ気ない言い方になったのは志田に気取られたくなくて。ひらひらと振られた片手を視界の端に捉えて踵を返す。

表に出てからさり気なく振り返った。入る時には目に留まらなかった看板灯。ペンで書いたみたいな流れる筆記体で“giraffe”。視線でなぞった。

閉じた扉の向こうに置き去りにしたままの、憶えてない“約束”に後ろ髪を引かれてる。だけどきっとこれきりだろうと思った。・・・お兄の顔が過ぎって。