スイレン ~水恋~

「・・・泣かせちゃったな」

俯いて鼻をすすり上げながら、目尻を拭うあたしの頬に骨ばった指先が触れた感触。やんわり透る低めの声がいつの間に隣りから。

「大丈夫、無理に壊さなくたってカベなんて勝手に穴が空く」

涙の痕をなぞって笑った気配。・・・なによ他人事だと思って。

「梓ちゃんが泣きながら頑張っても淳人は喜ばないよ?たぶん」

最後の『たぶん』がやっぱりいい加減・・・!でも言って欲しかった気もしたの、『大丈夫』って。『頑張るな』って・・・誰かに。

柳さんの言葉がいくつか、小さな丸い石ころになってあたしの中に転がってった。

よく分かんない(ひと)。お兄が言うほどなのかも。だっておじさまの方がよっぽど嘘だらけで。

鳴宮浩一の代わりにスツールに腰掛けてるバーテンダー。何かに引かれるまま濡れた眸を上げれば、頬にあった指が顎の下へと滑る。あ。・・・と思った時にはもう顔が離れてた。

押し当てられた温もりを唇に残して。