スイレン ~水恋~

「鳴宮さん」

おもむろに半身を傾けてあらたまった。言うほどの熱量を感じ取れなかった切れ長の目を見返して。

「あたしはお兄至上主義ってわけじゃありません。お兄以外、目もくれないつもりもないし、逃したら惜しいって思える(ひと)なら政略結婚だろうと上等です」

最後に初めて本音らしい本音を吐く。義理は通そうと。

「でも今、そういう相手は“誰も”いません」

「僕では役不足ですか」

「分かりやすく強い(ひと)が好きなんです。・・・たぶん」

お兄みたいな、なんてわざわざ付け足さずに思ったままを言った。

「・・・梓さんの心をいただくには出直すしかないようですね」

観念したように苦そうな笑みを滲ませ、すっと席を立つ鳴宮浩一。釣られて見上げる。