スイレン ~水恋~

そのあとは、今ハマってるモノだとか休日の過ごし方だとか、ありがちな質疑(アプローチ)に適当を混ぜながら応答(リターン)。おじさま絡みの案件は塩対応の加減が難しいったら。



自分の感覚でホテルを出てから30分ほど。徐々に減速した車がどこかの路上に静かに停まった。

「梓お嬢」

ルームミラー越しに志田と目が合う。

「・・・着きましたが」

「ありがと」

降りると、まばらに人が行き交う裏通り。赤提灯がぶら下がってたり、店名入りの電飾看板が置かれてたり。普通のオジサンが仕事帰りに立ち寄るお店が並んでる。ように見える。

「僕は初めてですけど、梓さんは?」

「あたしもここは初めてです」

秋生ちゃんだったらチョイスしない界隈よね。周囲を見渡すお坊っちゃんに釣られて視線を一巡。千倉の縄張り(シマ)じゃないってことぐらいしか。

道幅が広いところに一時駐車したらしく志田が先導して少し歩いた。ひとつ路地を曲がってすぐ、のっぺりした建物に入り口と看板灯。木製の扉はレトロなデザインでいかがわしさは感じない。