スイレン ~水恋~

どうしてくれようかと、腹積もりしてるあたしの脇に立ったお兄にも丁寧に名乗る彼。

「以前から先生にご兄妹のお話をうかがっていました。梓さんの成人式の写真を拝見して、ぜひ一度お会いしたいと無理をお願いしてたんです。不躾で申し訳ありません」

「・・・いえ。あの鳴宮のお身内ですか。将来有望で何よりだ」

「まだまだ千倉の若の足許にも及ばない弱輩者ですが、お見知りおき下さい」

「ビジネスの話なら梓抜きでいつでも構いませんよ」

同じ三つ揃いでも、迫力が段違いのお兄が薄く笑って先制。

「良ければこれからでも」

「ありがとうございます。いずれそういう機会もいただくと思いますが、今夜は梓さんにお目にかかりたかっただけなので」

極道相手に動じもしないあたり、さすがおじさまが選りすぐった精鋭。そこそこのイケメンだし普通の女子だったら、普通に『アリ』なんだろうけど。

「淳人君せっかくだ、あずちゃんと二人で話してもらったらどうかなぁ。最上階(うえ)のラウンジででも」

会話に図太く横槍を入れてきたおじさまが、親切心だと言わんばかりに笑み崩してる。

今すぐ、その口に44マグナム突っ込んで永久に黙らせたかった。