「オレはこれから鬼だらけの鬼ヶ島に戻らないとね。・・・温泉ならどこでも連れてったのに」

しゃくり上げる子供をあやすように。
温泉。そうよ約束したじゃない、仕事が片付いたら行こっか、って・・・!

涙でぐちゃぐちゃの顔を上げた。ゆっくり帽子を取り、素顔を晒した隆二があたしの濡れた頬を掌で拭う。目尻に唇が寄せられ、ハンカチ代わりに口付けを繰り返した。

薄い暗がりで初めてちゃんと目を合わせた。うねりがない短めの髪、志田をほんのこれぐらい冴えなくした感じの細面。艶めかしい夜の匂いは消え、掴みどころの無さげな空気をまとってた。

「女も子供も全部置いてく気なら、きっちりケジメつけやがれって伊沢さんに尻叩かれてさ。オレが未練がましいから逢いたくなかったんだけどねぇ」

笑うと、眼が細まって人が良さそうに見えた。

「ユウジとアリサは半分、オレで出来てるんだよなぁ。ちゃんとオマエに残せてよかった」

「・・・ユウは隆二にそっくりでしょ」

鼻をすすり上げながら。

「アリサはアリスちゃん似かな」

冗談めかす言い方にふと重なった、・・・記憶の中の面差し。