帰ったら、集中力が途切れがちな双子のやる気スイッチを、あの手この手で押し続け。宿題と明日の準備を夕飯までに終えさせて、夜の九時にはベッドに潜り込ませる。本を読み聞かせてる間に寝落ちするのが毎晩のルーティンだ。
入学前にベッドルームだった一番広い部屋を二人に譲った。机が隣り合わせに並ぶ光景も期間限定。そのうち自分だけのお城を主張するんだろうし。
寝入った二人の肌掛け布団を直してやり、廊下へ出るとふっと息を吐く。本日の親子劇場も無事閉幕、そんな心持ちで。
リビングに戻りかけ、踵を返す。洗面室の向かいはあたしのプライベートルーム。四帖半の和室だったのを、床の間や押入をリフォームして和モダンな洋室に模様替えした。ちなみに、志田を押し込んでるのはもっと狭い書斎だから、増改築をお兄に相談してるところ。
灯りを点け、窓際のライティングチェストに近寄り引き出しを開けた。ソファベッドにお尻を落とすと、掌の上の物言わないそれをじっと見つめる。
捨てられてたのかと思うくらい、変色して傷んだキーケース・・・だった物。キーホックには鍵も何もついてない。刻字してもらったR・Yのイニシャルも、アルファベットの一部らしい跡がかろうじて判別できるくらい。
オーダーメイドで外革はターコイズ、内革はキャメル色を選んだの。水にでも浸ったのか別モノに見えた。だけど隆二のだ。
隆二は。あたしが行ったことのない国で、跡形もなく消された。何ひとつ戻ってこなかった、骨のひとかけさえ。
使いかけのシェービングクリームとか歯ブラシとか。この家にどれもこれも残して二度と帰ってこないのを、やっと諦めがついてたのに。
胸の奥が揺り起こされる。
あたしの手に返ってきた意味を欲しがって。
信じたがって。
入学前にベッドルームだった一番広い部屋を二人に譲った。机が隣り合わせに並ぶ光景も期間限定。そのうち自分だけのお城を主張するんだろうし。
寝入った二人の肌掛け布団を直してやり、廊下へ出るとふっと息を吐く。本日の親子劇場も無事閉幕、そんな心持ちで。
リビングに戻りかけ、踵を返す。洗面室の向かいはあたしのプライベートルーム。四帖半の和室だったのを、床の間や押入をリフォームして和モダンな洋室に模様替えした。ちなみに、志田を押し込んでるのはもっと狭い書斎だから、増改築をお兄に相談してるところ。
灯りを点け、窓際のライティングチェストに近寄り引き出しを開けた。ソファベッドにお尻を落とすと、掌の上の物言わないそれをじっと見つめる。
捨てられてたのかと思うくらい、変色して傷んだキーケース・・・だった物。キーホックには鍵も何もついてない。刻字してもらったR・Yのイニシャルも、アルファベットの一部らしい跡がかろうじて判別できるくらい。
オーダーメイドで外革はターコイズ、内革はキャメル色を選んだの。水にでも浸ったのか別モノに見えた。だけど隆二のだ。
隆二は。あたしが行ったことのない国で、跡形もなく消された。何ひとつ戻ってこなかった、骨のひとかけさえ。
使いかけのシェービングクリームとか歯ブラシとか。この家にどれもこれも残して二度と帰ってこないのを、やっと諦めがついてたのに。
胸の奥が揺り起こされる。
あたしの手に返ってきた意味を欲しがって。
信じたがって。



