あたしに断って一服しに、ダウンジャンパーを引っかけた大将が表へ出てった。

思い返せば誕生日も、クリスマスだって日付またいでたし。隆二の場合、朝になるまでが“今日”にカウントされてるのよ、きっと。

そのうち『遅くなってごめんネ』って、悪びれなく帰ってくるから。できた女はニッコリ笑顔で『お疲れさま、寒かったでしょ?』。

年越しを仕切り直してお蕎麦すすって、温まったら初詣。鳴子謹製のおせちを楽しみにお正月を迎えるの、ふたりの家で毎年。ささやかすぎて、神様も叶えるのが楽じゃない? 

ひとり笑いを浮かべ、スマホの時計アプリを開く。23時57分32秒、33秒、デジタル数字がカウントダウンを刻む。後ろで入り口の引き戸が重そうな音を立て、振り返った。

「あと三分で年が明けちゃいますね」

「・・・そうですかい」

カウンターの中に戻った伊沢さんがしゃもじを手に、混ぜる手付きで視線を落としたまま。ふと、静寂に低い声が透る。

「隆二がガキの頃・・・よく、いなり寿司を食わせてやりました」