「息するみてぇに女を口説いてやがったガキが、惚れてるだの安く言わねぇ方がよっぽど、嘘がねぇ気がしますがね」

湯気が立ち昇る肉豆腐も並んで、箸を勧められながら。見えない掌で背中をとん、と押された。

「お嬢さんが惚れたまんまの隆二を・・・この先も信じてやっちゃくれませんか」

「もちろんです・・・!」

顔をくしゃくしゃにして微笑み返すのが精一杯。
伊沢さんは安堵したように目を細め、黙って手元を動かした。

恒例の歌合戦の勝敗がついた頃合いになっても、隣は空席のまま。お兄や志田の話が尽きなくて退屈じゃなかったけど、物足りない。寂しい。早く顔が見たい。

「隆二ってば、寄り道にもほどがあると思いません~?」

わざとらしくほろ酔いのフリ。仕事は仕事。極道の娘の意地にかけても、くどい女には見られたくない。

「・・・年越しちゃ勿体ねぇんで、蕎麦を茹でちまいましょうか」

「平気です、待ちます」

一瞬、伊沢さんの表情が曇った。どこまで遅くなるか分からないのを心配してくれたんだろう。だけど約束したから。

『待ってて』

嘘は吐かない男だから。