テーブルには箸と箸置き、お猪口が二席分。空いてる椅子にコートとバッグを置かせてもらい、食欲をそそるお出汁の香りにほっと息を吐いた。

「隆二が戻ってねぇんで・・・。つまらねぇ男としばらく差しで付き合っちゃもらえませんか」

カウンター越し、伊沢さんがほんのり口角を上げたのを冗談雑じりに。

「つまらないなんて。絶対あとで妬きますよ?隆二。伊沢さんに惚れるなって口癖ですから!」

「・・・でしょうよ。あいつはお嬢さんにベタ惚れでしたんで」

「え?」

おしぼりへ伸ばした手が止まる。

「惚れてる、・・・んですか?あたしに」

「他にどうも見えやしません」

一番大事にしてくれてるのは十分すぎるくらい分かってる。それが何であれ愛情なのも、あたしだけなのも。

でも、と口が勝手に動いて止まらなくなった。

「種類がちがうんだって・・・思ってました。お兄の代わりになってくれる約束だからって、あたしにはとっくに代わりなんかじゃないですけど、宝物みたいに守られて甘やかされて、」