「オレがいなくてもちゃんと布団で寝ないと、風邪引くよ?赤ずきんちゃん」

悪戯っぽく付け足すと、片手を振って扉の向こうに見えなくなる。

そう言えば、赤ずきんちゃん呼びを久しぶりに聴いた。なんだか懐かしかった。

帰ってくるまでに大掃除と、二十九日はセルドォルの仕事納め。忙しくしてたら、きっとあっという間。脳内スケジュール帳をめくりながら。

晦日の三十日は、秋生ちゃんがテイクアウトのステーキ丼を差し入れてくれた。

『女は痩せると抱き心地が悪いんだからねー?』

この一ヶ月は隆二よりも世話係と顔を突き合わせてた、あたしの恨み節をさんざん聞いてくれた彼女流の励まし。

レアな赤身は柔らかくて、醤油ソースもさっぱりしてて、隆二にも食べさせたくなってお店を教えてもらった。

普段はそこまで行き届かない拭き掃除とか、庭の掃き掃除とか、達成感に自己満足しつつ。あと数時間で年があらたまる頃合いに鳴子の暖簾をくぐる。

「こんばんは、今年もお邪魔しにきました」

「・・・いや、こっちもお嬢さんと年の瀬を締めくくれりゃ何よりでしてね」

渋く笑んだ作務衣の伊沢さんがカウンターから出てくると、外した暖簾を中に仕舞う。