「お疲れ様ですお嬢」

「ただいま」

夜の八時前、セルドォルのアルバイトから戻ると、ガレージで黒スーツの志田が出迎えてくれた。

隆二の車の代わりに、あたしの送迎車だったセダンが停まってる。あの頃はまるで気にしてなかったけど、思い返すといつ乗ってもシートもガラスも、汚れひとつなかった。

「隆二は?」

「・・・明日は鷺沢会長の警護で、今夜は戻らないと。若も出席する支部の懇親会です」

「そう」

トートバッグをあたしの手から抜き取って、玄関に向かう男のあとを歩きながら。ぐっと冷え込んだ夜気に首をすくめる。師走がすぐそこだった。

隆二は出かける前に何も言ってなかったから急だったんだろう。神経質になってるつもりはないけど、櫻秀会の会合を襲撃するバカもいないと思うし、ちょっと安心した。

「風呂は湧いてます」

「ん、ありがと」

実家じゃないのに当たり前にお嬢と世話係に戻る。一生変わる気がしない。