やんわり笑んだ気配。杏花さんと旅行。・・・そっか新婚旅行。

なにかを期待して膨らんでた胸の奥が、針で刺されて空気が抜けるように徐々に萎んでく。

いつもだったら。ゴールデンウィークはお兄が妹のリクエストに応えてデートしてくれるの。日帰りで行けるところならどこでも、海でも山でもテーマパークでも。『梓の行きたいところに連れてってやるぞ』・・・って。

そっか。・・・もうあたしの、じゃなくて杏花さんの・・・よね。

思ったら笑いそうになった、まだお兄離れには程遠い自分に。もう嫌。情けなくなった途端、眸が歪んだのを俯かせる。

『ああ、連休の後半は三人で出かけるか。あずの行きたいところでいいぞ』

千倉の家に来て間もない奥さんと、妹の両方を立てて気遣う優しいお兄。ここは妹のプライドにかけて『じゃあ考えとくね』って、素直に喜んであげたい。あげたいって思ったの本当に。

・・・でもね。だけどね。

「お兄ったらなに言ってんの、新婚なんだから妹より杏花さんサービスでしょっ?忙しくって休みだってなかなか取れないんだし、二人で行きたいとこに行ってきてよ。あたしはお土産だけで許してあげる!」

明るく笑った。強がりと根性と、妹のプライド全集中で。