免許を取ったのは、今までみたいに頼りきりじゃなく、自分で出来ることをもっと増やしたかったから。

隆二はちょっと窮屈そうに初心者ドライバーの助手席に収まって、ガソリンスタンドも駅ビルの立体駐車場も、慣れる練習に付き合ってくれた。けっこう厳しめな教官だった・・・。

それに車通勤できれば、不定休で不規則な隆二の生活スタイルに合う、奇跡的な求人がもしかしたら見つかるかも。秋生ちゃんにぽろっと零したら、ハルトさんがアルバイト先を紹介してくれた。

オーナーがハルトさんの親戚筋らしく、シフトもフリーな厚待遇。賃貸マンションの一階にかまえた輸入雑貨店で、自分の空いた時間に働かせてもらえることになった。

こんな無茶な条件を呑んでくれたのが、かえって不安になりながら初顔合わせに出向き。スタッフルームで迎えてくれたパンツルックのオーナーは、予想以上にフレンドリーで素敵な女性だった。

『あたしも梓ちゃんと同じ、極道の娘なのよ?』

片目を瞑りひそひそ声で、彼女、中根(なかね)由里子(ゆりこ)さんはキュートに笑った。

ハルトさんとは組の分家同士で、由里子さんの家もお兄さんが跡目なんだそう。早くから自立して、25歳で雑貨店“セルドォル”を開いたと聞き、自分と重ねた。

カゴの外を自由に羽ばたいてる彼女が眩しく見えた。由里子さんみたいになりたいと強く憧れが湧いた。隆二を一番大事にしながら、あたし自身も輝ける何かを探せたらいい。

カゴの中で守られてたら。こんな真剣に生き方を変えたいなんて思わなかった。毎日を真剣に生きようとすら、思うはずがなかった。

後悔はしない。心から言える。隆二があたしを選んでくれてよかった。あたしも選び方を間違えなくてよかった。ねぇ隆二、死ぬまで誇れるわ。