起こした途端、胸の辺からなにかがズレ落ちた。まるで気付かなかった。お腹の上にかかってる男物の上着。ベージュ色の、見るからにオーダースーツの、心当たりは一人だけ・・・!!

「隆二ッッ?!」

上着を引っ掴み、弾かれるように廊下に飛び出す。どこ?!寝てる?!また勝手にあたしを置いてったの?!

寝室のドアハンドルに腕を伸ばしかけた刹那、耳が水音を拾う。夢中で洗面室に駆け込み、勢いよくバスルームの折れ戸を開け放った。

龍がいた。前足の鋭い爪に紅玉を掴んだ昇龍。天に向かって咆哮する龍。両手で、前から後ろに髪を掬いあげる仕草で滴り落ちるお湯を切り、背中の龍ごと半身振り返った男。

「おかえり梓」

湯気に薄っすら霞む甘い笑い顔も、低めの艶っぽい声も。ほんとはまだ目覚めてないあたしの夢だったら、醒めないで欲しかった。