もし明日、人の気も知らない隆二が当たり前の顔で帰ってきて。また笑って出かけても、あたしは何も訊かず笑顔で見送る。

隆二があたしを選んだ理由。あたしが隆二を選んだ意味。そんなのは最後の最後まで分からない。

二人にいつか残るものが、ほんのひと欠片だったとしたってきっと。この世にたった一つの宝物だから。

どんな些細な幸せも見逃さないでいよう。目を皿のようにして。

小さく深呼吸。

「なんだか・・・一から始めるみたいな、生まれたてのヒヨコの気分」

「おめでとアズサ」

ルームミラー越し、ハルトさんがやんわり口角を上げた。

「籠の外へようこそ」