ハルトさんも黙って車を走らせる。あたしは前のめりになって真剣に耳を傾けた。ひと言も聞き漏らしたくなくて。

「生まれてすぐ捨てられて親の顔は知らねぇんで。・・・鷺沢の会長が拾ったのが八つか九つ、ヤクザの家にもすんなり馴染んじまいましてね。俺には、どこにも根っ子を生やす地面なんざ無ぇ・・・と悟ってやがったように見えました」

志田と同じ施設で育ったことは本人から聞いて知ってる。想像もつかない。自分と繋がる家族が一人もいない、世界にたった一人きり。

足をつける地面さえどこにもない。・・・そんな絶望も諦めも味わったことない。お兄と志田に守られて、温々(ぬくぬく)と甘やかされてた温室育ちの自分は。

段ボール箱の上に鉄の玉が落ちたみたいな、ひしゃげる音がした胸の奥。

「会長にも可愛がられて今じゃあ、組の要だ。勝手都合で外道に堕とされたと恨み言ひとつ言いやしなかったが、手前ェの命に重しを乗っけてもねぇ。・・・いつくたばっても構わねぇって面で、デカい仕事の前には鍵を一本押し付けていきやがる。戻らなけりゃ部屋(まる)ごと処分しろってェ遺言代わりです」

あたしの中に深く響く。下りてくる。受け止める掌に見えない棘痕をいくつも残す。