伊沢さんじゃなかったら。
お兄は志田に引き金を引かせたかもしれない。
もしかしたら。
志田自身が、引く指を躊躇わなかったかもしれない。

「お嬢さんの頼みを反故にするなんざ、(おとこ)が廃るってもんでしょう。頭下げられるほどの事はしちゃあいませんよ」

てらいもなく笑んだ気配。

「淳人もお嬢さんの心根は分かってやがる。ただ手前ェの意地を曲げられねぇんで」

「・・・はい」

伊沢さんはお兄のこともよく分かってる。それが伝わってくる。

「隆二は根無し草みてぇなもんです」

唐突だった。伊沢さんの静かな声に息を忘れる。