スイレン ~水恋~

押し黙ったお兄の答えが肯定だったのか、確かめる術もないまま。スマホを志田の手に返した伊沢さんが、こっちに向かって口の端を緩めた。

「支度はいいんで?」

急いで二階の部屋に駆け込み、クローゼットから薄手のロングカーディガンを引っ張り出す。なるべく歩きやすそうなサンダルに履き替え、クラッチバッグを手にリビングに戻れば、エアコンが要らないくらい冷えてる空気。

内心で吐息を漏らすと志田の前に立ち、真っ直ぐ顔を上げた。

「心配してくれてるのは分かってるわよ」

「・・・だったら少しは聞き分けちゃどうです」

「子供じゃないんだから好きにさせて」

「子供だろうと大人だろうとお嬢はお嬢です。・・・若も同じでしょう」

「少しは信用してったら」

わざと素っ気なく。

「可愛い子には旅をさせなさいよ」

あたしを育てたこの男はどうせいつだって、横から世話を焼いてくるの。うんざり顔で溜息吐いて。