『・・・んだ、テメェッッ』

荒々しく吠える声に息を忘れる。

扉の向こうで起きてるのは尋常じゃない何か。血の気が引いて小さく悲鳴を上げた。シュウゲキ?イヤッ、コワイ・・・ッッ。

耳を塞ぎ、うずくまって名前を叫んだ。お兄だったのか隆二だったのか。躰をものすごい力で引っ張られ、頭の中が真っ新になる。

『お嬢ッ』

聞いたこともない志田の厳しい口調が、耳に刺さった。圧し潰されそうな息苦しさに気付いた時には、音が失せてた。

ふたりとも生きてるのか一瞬あやふやになった。胸元にあたしをきつく閉じ込めた男は、微動だにしない。

「志・・・」

掠れ声で絶え絶えに呼ぼうとして。ふいに静寂を破ったのは、渋みのある深いトーンだった。

「・・・こっちは丸腰だ、梓お嬢さんの前で物騒な真似はよさねぇか」

「どの口で言ってる」

頭の上で志田が嘲笑った。気がした。

だけど。
どうして。

「・・・伊沢、さん・・・?」