「・・・目先を見たらそうでしょう」

うんざりして聴こえた。

「少なくとも、柳と一緒の泥船にお嬢を乗せずに済むんですがね」

泥船。いつか必ず沈む船。

お兄も志田も同じに繰り返すの、未来(さき)がない・・・って。それだけで納得しろなんて、もう無理。

「なんで泥船なのよ」

初めは、女たらしの悪い男に引っかかった妹の目を、醒まさせるのに躍起になってると思ってた。誤解だから解けると思ってた。そうじゃない、“女たらし”はお兄のブラフ。隆二から遠ざける為の。

「訊いてどうするんです。大人しく柳を捨てますか」

「捨てないわよ、志田のばかっ」

「・・・話になりませんね」

こめかみの辺りで、ぷつ、と何かが切れる音。ほんとに、この男は、昔っから、人の気持ちを逆撫でする天才!!

「ふ」

ふざけないで。口から飛び出す瞬間。リビングの外で突然、怒号と震動が響いた。