「お兄はあたしに弱いから・・・」

泡まみれの手が止まり、呟きが口から溢れ落ちた。

かぶった鬼の面の下には優しい愛情しか詰まってないのに。妹の羽根をもぎ取って平気でいられるわけないのに。

「お嬢が言えばいつでも呼びますが」

「・・・そうね」

曖昧に濁した。今は笑顔さえ作れそうにないのを見透かされたくなくて、精一杯強がってみる。

「杏花さんに負けないくらい腕を上げたら」

「・・・承知しました」

なにか言いたげに間が空き、それだけ返った。
あたしは手元に視線を落としたまま一度も志田を見なかった。