スイレン ~水恋~

お兄の中であたしは、自分がいなくなると愚図る、子供のままなのかも知れない。俺じゃないとあずは駄目なんだ・・・って。妹が泣かないように悪いものは俺が(はら)う、って。

サクッと焼き上がったトーストの歯触りを感じながら、胸の奥に切なさが滲んでく。

自分ひとりの力で生き抜けるほど大した人間じゃない自覚はあるの。甘やかされたがりだし、秋生ちゃんにも頼りっぱなし。だけど。

デコボコの険しい道で転んで怪我しても、絆創膏貼って立ち上がって。また歩き出せるくらいには子供じゃなくなった。

お兄に気付いて欲しかった。もっとあたしを信じて欲しかった。甘苦いカフェオレと一緒に飲み下した寂しさの欠片。

「ところで会社はどうするの?そんなに有休ないわよ?」

少し離れて脇に控えた志田にわざとらしく訊ねる。社長の仕事はリモートで何とかなるとして、あたしの不在は専務の江上さんに誤魔化しようがないでしょ。

「二、三日休みを取った後、一身上の都合で退職扱いになります。・・・お嬢の辞表は若から受け取りました」

淡々とした志田の告白は今さら衝撃でもなかった。お兄の意向なら江上さんも詮索できない。癖になったみたいに溜息が零れる。(ひかり)に黙って辞めるのだけ心苦しい。

あ、シアワセが逃げてった。

隆二の笑い顔が唐突に浮かんだ。

・・・追いかけて捕まえるわ。

誰にも聞こえないように呟いた。