蔓草模様の妻飾りがお洒落な玄関ドアから、靴を脱がずにテラコッタ床のホールを通って中へ。

漆喰の白壁にステンドグラスの小窓、家具もヴィンテージ調で揃ったリビングは、違う国に招かれた気分で。食欲をそそる香りが広がり、天板がタイル貼りのアイランドキッチンには、コック服姿の男性が一人。

「ここは貸別荘でな。シェフを呼んでこういうのも悪くないだろう?」

「うん、すっごく素敵!」

淡く口角を上げて見せたお兄に思わず抱きつく。高級フレンチに連れて来てもらうより何十倍も贅沢に思えた。

綺麗な木目のダイニングテーブルにはカトラリーがセットされ、ギャルソンよろしく志田が椅子を引いてくれる。上着だけ取ったお兄と向かい合い、まずはシャンパンで乾杯。

「お前も二十四になるのか。俺が歳を取るはずだ」

「全然変わってないわよ。そしたら志田はもっとオジサンじゃない」

しみじみ言うから呆れると、後ろから咳払いが低く聴こえた。

「何歳になったってずっとカッコいいんだから、お兄は永遠にお兄でしょ」