空気が燃料なのかと思うくらい、夕闇の中を静かにスピードが乗ってく国産の高級セダン。後部シートでお兄と二人きり。甘えるようにもたれかかれば、肩を抱き寄せてくれる。

護衛は、後ろをぴったり追走してる志田と、この車の運転手さんだけ。両親も杏花さんもいない予想外の展開は、乗り込む前のお兄のサプライズな告白で知らされた。

『安定期に入ったら言おうと決めてたんだが、実は杏花がつわりでな。ずっとお袋に看てもらってる』

眉を下げ、どことなく照れくさそうに。

『杏花も残念がってたぞ。あずを楽しませてやってくれと言付かってきた。親父も気を利かせたつもりらしい』

何となく子供はすぐだろうなぁって。順調なら、生まれるのは年明けの終わり頃だと破顔したお兄。

『良かったじゃない、おめでとうっ』

素直に喜べたあたしは。隆二と出会ってなかったら居場所がどんどん無くなるようで、空しいだけだったかもしれない。