眼がぶつかる、温度のない闇色のガラス球と。急所を仕留めにくるお兄と違って、気が付いたら足を止められてる。いつもそう。

「追ったところで柳と若の(あいだ)がこじれるだけです。筋を通す順番が違ってやしませんか」

「・・・っっ」

言い返す言葉に詰まった。沸騰気味の脳ミソでも理解できる正論。空気が抜けるように、さっきまでの威勢が萎んでく。

「お嬢が自分を一生恨むのは構いませんが、若を恨むのはお門違いでしょう」

志田は淡々とあたしを泥濘(ぬかるみ)へと沈め、嵌まった脚は一歩も前に踏み出せない。

どんどん遠ざかって見えなくなる隆二の車が脳裏を過る。
行ッチャウ。
ううん、独りで行かせたのはあたし・・・!

躰中に苦味が広がった。破れた袋から毒が染み出したみたいに。